建物を建てる上で、基準となる「長さ」があります。身近なものでは、メートルやセンチメートルといった日常的な寸法がありますし、日本では古くから「尺」が使用されてきました。これらはいずれも長さの計量基準となる単位であって、長さの計量器である「ものさし」は文具店やデパートなど、どこで買っても同じ長さであることは当然です。ところが、明治8年(1875)に度量衡取締令ができるまでは、厳密な長さの統一が図られていなかったのが実情のようです。
古建築の世界ではそれぞれの現場独自の長さの基準となる「尺杖」(しゃくづえ)と呼ばれる一種の「ものさし」が使用されていることをご存知でしょうか。
この「尺杖」は、長さ1間(1.8メートルほど)のものから、4間(7.2メートルほど)位のものがあり、断面は3センチほど、主として狂いの生じない丈夫なひのきを使用して作られています。尺杖には長さの目盛を記して使用します。
箱根関所復元現場では、まず尺杖を作成し、長さの基準を厳密に統一していました。以降、すべての長さの基準がこの尺杖となるので、現場オリジナルの「ものさし」となるわけです。
また、建物を建てる際の大きな下準備として原寸図の作成があります。原寸図は、本物と同じ大きさの図面を板に墨で描く作業で、この時に現場で作成した尺杖を利用して建物の細かな寸法が決定されます。
この原寸図に合わせて「矩計り尺」(かなばかりしゃく)と呼ばれるものが作成されます。これは、原寸図から建物の各部分の高さ、土台や桁(けた)・梁(はり)などの主要寸法を写し取ったもので、これも現場ならではの重要な「ものさし」となります。
この「矩計り尺」は保存用であって、さらにこの寸法を別の尺杖に写し取って、現場での木材加工作業に使用するようにします。
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